[最優秀賞]
中原瑠星|紙表具の基礎研究
三重県出身
杉山恵助ゼミ
日本において、絵画を装飾する伝統的な方法として、掛軸や巻物、屏風などが知られる。これらの装飾された作品を総じて「表具」と呼び、特に掛軸は表具の代表的な存在である。一般的に、掛軸は裂で仕立てられることが多く「裂表具」と呼ばれ、紙で仕立てられた「紙表具」も存在する。
本研究では、紙表具の特徴とその製作技法を解明することを目的とし、文献調査や作品調査、そして紙表具において重要となる柔軟性をみるために実験を行った。
文献調査から、紙表具には3つの特性があることが分かった。それは、お茶の世界で重宝されていること、その一方で紙表具は粗相なものだとして評価されていること、また、紙表具には高い技術が求められることである。
それから、紙表具の構造的特徴も確認できた。技法書によると、風帯には貼風帯を施し、中裏打ちや耳折りを省略し、総裏打ちでは宇陀紙を用いずに半紙や美濃紙を代用すること、また、打刷毛はその回数を省略することなどが明らかとなった。
そして、それらの文献調査から明らかとなった紙表具の特徴的な構造を実際の紙表具作品と比較し確認した。筆者が所有する作品9点とスミソニアン研究機構米国立アジア美術館にて調査した7点の作品の合計16点を対象に行った。結果として、文献の特徴と合致する作品の一致率はいずれにしても少なかったものの、その差異を観察することができた。また、文献に記載されていなかったが、興味深い特徴として上巻絹が省略されていることである。一般的な掛軸には上巻絹が施されるが、調査対象とした作品から11点の作品が、上巻絹が施されていない様子を見ることができた。
最後に紙表具の柔軟性を調べるため、剛軟度試験を行った。サンプルは全部で3層からなりそれぞれ実際の掛軸に使用される紙を参考に、1層目に宣紙、2層目(以下肌裏紙)に薄美濃紙、3層目(以下総裏紙)に宇陀紙を使った。接着剤に小麦澱粉糊(以下新糊)を使用した。肌裏紙の裏打ちには3%に濃度調整をしたものを使用し、総裏紙の裏打ちには0%と0.5%、1%~5%と変化させた糊を使った。そして、肌裏紙の繊維方向を縦と横に変えた合計14種類のサンプルで実験を行った。その結果、肌裏紙の繊維方向が縦方向のサンプルの方が、横方向のサンプルよりも柔らかいという結果が得られた。これは、一般的に考えられている結果とは逆であり、今後の更なる検証が必要となる。
杉山恵助 教授 評
紙表具は、華やかな裂地ではなく、装飾紙を使用した掛軸であり、茶道具の装丁や安価な掛軸として親しまれてきた歴史を持つ。しかし、その仕立てには高い技術が要求されるため、修復の現場でも熟練の技が求められる存在である。中原さんは、この紙表具に焦点を当て、技法書の読解と体系化、文献情報の作品調査との照合、さらには裏打ち実験を組み合わせた三位一体の研究手法により、説得力のある成果を挙げた。これらの成果は、紙表具の技術的背景と歴史的意義を深く掘り下げたものであり、修復分野における重要な知見として高く評価される。ゼミ室において日々研鑽を積み重ねたその姿勢と努力が、この成果を導き出した原動力であることは疑いない。今回の研究を基盤とし、今後さらなる活躍を期待するものである。?
1. 剛軟度試験結果グラフ
2. 所有作品1
3. 所有作品2