文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

阿部千佳|脱酸性化処理の比較考察ー新聞紙を用いてー
山形県出身
中右恵理子ゼミ

 毎日印刷されている新聞紙は、文化財の修復に使用されている和紙などの紙よりも脆弱である。そう述べられている理由の一つとして、新聞が印刷されている紙が酸性の性質を示す紙の酸性紙であることが挙げられる。酸性紙は紙の褐色化や柔軟性が損失し、さらに劣化が進行することで紙が端の部分から崩れ落ちるようになる。そのような酸性紙を保存する方法の一つに「脱酸性化処理」といわれるものがある。脱酸性化処理とは酸性に偏った紙にアルカリ性物質を加えることで、中性に近い状態にする処理のことで国立国会図書館といった図書館施設の紙資料にはこの処理が施されている。これらの現状から筆者は新聞紙を保存することがどれほど困難であるのか疑問をもった。本研究では物質としての新聞紙の脆弱性について調査するとともに、日本で行われている脱酸性化処理の方法にどのような相違点などがあるのかを、製造された年代の異なる新聞紙に脱酸性化処理を施し、処理前後の状態の比較実験を行った。
 本研究では、印刷技術や紙の原材料に変化があった1980年代の新聞紙を中心に3種類の年代の異なる新聞紙を選択し、酸化マグネシウムを分散させた液を使用した「ブックキーパー法(BK法)」(画像1)とアンモニアガスなどの気体を使用した「ドライアンモニア酸化エチレン法(DAE法)」(画像2)の2種の脱酸性化処理を施し、処理前後の「リグニン含有量」「pH値」「水の浸透性」の3項目を比較調査した。
 実験の結果、DAE法は紙に含まれているリグニンが減少したことで高いアルカリ性を示していた。しかし、専門の施設に送らなければ処理をすることができず、自分で処理をすることがほぼ不可能であるといえる。BK法はスプレーボトルタイプを用いて個人で手軽に脱酸性化処理をおこなうことが可能だが、紙の褐色化の原因であるリグニンを除去したわけではないため、処理の効果がDAE法に比べて短いのではないかと考察した。
 今回は3種類の比較実験を行ったが、紙の内部のpHの測定や脱酸性化処理をした紙に加熱処理を施すといった先行研究も行われており、様々な条件下での研究の積み重ねが必要である。また、今回は新聞紙の製造年代の間隔が大きく開いているため、紙の変遷に合わせて年代を細分化することによって、劣化の状態をより詳細に調査することができるのではないかと考える。

?画像2引用元) 株式会社日本ファイリング 2022/11/4 DAEサンプル報告書

1.スプレーボトルタイプのブックキーパー法

2.ドライアンモニア酸化エチレン法を行う専用コンテナ