文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

小林芙由|ポリエステル繊維の洗浄方法の検討
山形県出身
佐々木淑美ゼミ

 衣服は人々の暮らしと密接に関わっている。現代では昔から存在する天然繊維の他に、化学繊維製の衣服も広く普及している。それらの中には着用されるだけでなく、博物館や美術館等で展示、保管され、文化的価値、芸術的価値を持つものもある。しかし人に着用されるものである以上、汚れを避けることはできない。現在展示、保管されている衣服も、初めからそれを目的としたものとは限らず、かつては人に着用されていたために汚れが生じている可能性もある。その汚れを除去する操作が洗浄であり、繊維の種類や状態を分析し、適切な洗浄方法を選択することが、繊維を長期間保存するために必要である。本研究ではポリエステル製ドレスの洗浄試験を通して、文化財保存の観点から、化学繊維に対してダメージを与えにくい洗浄方法を検討した。
 洗浄試験では洗剤の種類や洗い方を変え、合計31種類の洗浄方法を実施した。結果は順光写真による目視観察に加え、紫外線観察、マイクロスコープを用いた拡大観察の結果を総合して評価を行った。試験の結果、ほとんどの洗浄方法において目視で確認できる汚れは除去できているように見えた。中でも漂白剤を使用したつけ置き洗いや、超音波を利用した洗浄方法は汚れが落ちていることが明確であった。一方で高温の蒸気を利用したジェットスチーム洗浄や、真空状態の中で汚れを浮かせる真空引といった洗浄方法は汚れがあまり落ちないことを確認した。洗浄力の強さだけでなく、傷みや色落ちといった洗浄による繊維へのダメージも考慮し、本研究ではポリエステル繊維の洗浄には、超音波洗浄や中性洗剤を使用した洗浄を提案する。しかしポリエステル繊維以外の化学繊維への洗浄効果や、洗浄後に長期間保存した場合の影響については検討できていないため、今後の課題としたい。

1.研究対象のドレス