文化財保存修復学科Department of Conservation for Cultural Property

高子あゆみ|フリーズドライした小麦澱粉糊の基礎研究?再加水による溶解の観察?
東京都出身
杉山恵助ゼミ

 和紙や絹の接着剤として使用される小麦澱粉糊は、文化財修復にも使用されます。小麦澱粉糊は小麦澱粉と水を加熱しながら混ぜ合わせた、天然素材の接着剤です。しかし、天然素材であるがゆえに、カビが発生しやすく、長期保存には不向きな接着剤でもあります。小麦澱粉糊以外の天然素材の接着剤は、乾燥させることで長期保存が可能になり、水を加えることで再度使用できます。また、布海苔水溶液という海藻由来の接着剤は、フリーズドライしたものが販売され、利便性が高いと評価されています。フリーズドライは、カップラーメンなどの食品加工技術として知られていますが、文化財保存分野でも被災資料レスキューなどに使用され、幅広い分野で活躍しています。本研究は小麦澱粉糊の保存性と利便性を高めるためにフリーズドライを行いました。溶解実験を行うことにより、フリーズドライした小麦澱粉糊の溶解しやすい条件を明らかにしたうえで、使用方法を検討し、実用化を目指しました。
 小麦澱粉糊を24%、11%、6%に薄め、フリーズドライ装置に入れ、フリーズドライした小麦澱粉糊を作製しました。溶解しやすい形として、タブレット状と粉末状に加工し、合計6点の試料を作製しました。お湯や水を加えて溶解した結果、6%のフリーズドライした小麦澱粉に水を加えたものが、溶解しやすいことが分かりました。溶解中に発生した塊やダマは、裏ごしを行うことが効果的であるとわかりました。また、比較対象として、恒温器乾燥した小麦澱粉糊を同じように溶解を試みたところ、恒温器乾燥した小麦澱粉糊は全て溶解できず、粘りもなくサラサラした感触でした。それに対し、フリーズドライした小麦澱粉糊は、粘りや艶、とろみが確認され、普段使用している小麦澱粉糊と酷似しており、フリーズドライの特徴である再現性が、如実に表れたのだと考えられます。
 今回は溶解について注目し、実験を行いましたが、今後実用化を目指すにあたって、粘度比較や接着力の比較などを行う必要があります。また、今回は裏ごしを行いましたが、現場使用を考えると、裏ごしすることのない溶解方法を模索する必要があります。今後研究を進めることによって、フリーズドライした小麦澱粉糊が接着剤として活躍し、利便性が向上することを期待します。

1.6%粉末状のフリーズドライ小麦澱粉糊

2.溶解したフリーズドライ小麦澱粉糊

3.溶解できなかった恒温器乾燥小麦澱粉糊