高坂まな井|現代舞台衣装等に使用される素材の展示に伴う光劣化に関する研究
山形県出身
佐々木淑美ゼミ
舞台衣装は、演劇、オペラ、映画、テレビ等で用いられる衣装の総称である。化学繊維をはじめとした安価な素材が普及すると、入手しやすいことから平服だけではなく舞台衣装でもそれらが使われることが多くなった。しかし、文化財の分野ではポリエステルやナイロン等の新素材の研究は少ない。そこで、本研究では舞台衣装としての役割を終えて展示用となった衣装を対象として、衣装展示の事例や使用される布の劣化の様子を調査することで、今後展示や保管される舞台衣装やその他の新しい文化資源の色や状態をよりよく維持するための基礎的考察を得ることを目的とした。
まず、衣装の展示に使用されている照明の種類と劣化防止策を把握する目的で、劇場や博物館、その他衣装を展示している施設にメールや電話でアンケート調査を行なった。その結果、全体的にLEDが多く使用されていることが確認できた。元々展示環境や資料の取り扱いマニュアルが整っている美術館や博物館では、保存の対策が行われていた。一方で、店舗での展示では対策されていないことが多く、基本的に劣化を意識していないことがわかった。舞台衣装の展示では、実際の舞台で使用する照明やそれに類似した照明を使用して臨場感のある展示を行う事例も見られた。
また、劣化対策がない状況で、舞台衣装にどのような劣化が生じる可能性があるのかを検討するために、実験を行った。シャンタン、チュール、サテンといった3種類の織りの生地において一般的に多く使用されているナイロン、シルク、ポリエステルといった素材を選択して実験サンプルとした(全7種)。サンプルをバットの上に並べて設置し、ランプを照射して劣化の様子を観察した。光源は、多くの繊維において光劣化を促進する紫外線と、展示環境で広く普及してきた LED を実験に用いた。その結果、ナイロン素材とシルク素材は紫外線による退色が顕著であり、反対にポリエステル素材は紫外線でもあまり退色しないことがわかった。また、紫外線よりもLEDのほうで全体的に退色が軽微であることは予想通りであったが、 LEDの場合でもシルク素材については、ポリエステル素材やナイロン素材と比較して変退色が大きかった。