文化財保存修復研究センターにおける昆虫相調査と対策の提案
阿部風音
福島県出身
保存科学ゼミ
? 文化財の治療的修理?修復処置は最終的な保存の?段であり、日頃の管理によって文化財を取り巻く環境因?を除去あるいは人為的に制御し、劣化を予防するという予防的保存の考え方が現在重要視されている。東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター(以降センター)でも、かねてより文化財の日常管理の重要性を発信してきた(図1)。
文化財を取り巻く環境因子として、地理的?気候的因?や?為的因?、?然災害因?、そして?物的因?などが挙げられる。これらの環境因子を把握し、適切な対策を講じることが、文化財の適切な保存と必要最?限の修復を可能とする。
本研究では、センターを対象とし生物的因子の把握と対策の提案を目的として、建物の外から中へ移動する人間の出入りが多いセンター1階を中心に、捕虫トラップを用いた昆虫相調査を行った。捕獲された昆虫類については可能な限り目レベルまでの推定?計上を行った。
さらに、文化財分野において注目されているIPM(総合的有害生物管理)の考え方に基づき、今後センターにおいて日常的にどのような対策が有効かを検討した。
昆虫類の防除方法には、殺虫剤などの薬剤を用いた手段と、薬剤を使用しない方法で昆虫類の防除を行う手段とがある。本研究では、センター利用者の各々が行うことができる後者について提案することとし、下記にその内容を述べる。
結果として、センター内で飛翔性昆虫であるハエ目が多く捕獲された。これを踏まえ、まずはセンター全体としてエリア別に、こまめな清掃を行うことを昆虫類の侵入対策として提案したい。本調査で捕獲された昆虫類の中には、ハエ目をはじめ、日常生活で生じる汚れを好む種が確認されている。また、昆虫類の多くは部屋や空間の隅を好む習性を有しており、実際にセンター内エリアの隅に設置した捕虫トラップからは複数の昆虫類の捕獲が確認された。このことから、清掃を行ううえではエリア及び部屋の隅を重点的に清潔にすることが必要であると提案する。また、清掃中に異常等が見られないかを目視点検することで、より早急に環境に生じた異常に気付くことができる。そのため、清掃はひとりで行うのではなく、なるべく複数人の目が向けられた状態で行うことが望ましい。