熱圧着裏打ちに関する研究
鹿野有沙
山形県出身
東洋絵画修復ゼミ
書画作品を補強する方法として、日本では伝統的に小麦澱粉糊と和紙を使用した裏打ち方法を用いる。しかし、近年では時間短縮やコスト削減のため、熱で接着するホットメルト接着剤を使用した裏打ちを行う手法が増えてきた。その話を知った際に、熱圧着裏打ちされた作品には可逆性があるのであろうかという疑問を抱いた。本研究では今後修復現場に持ち込まれることが増えると予想される、熱圧着裏打ちの剥離方法を追及することを目的に、溶剤を用いた剥離実験を行った。
剥離実験に際してアクリル絵具で染色した宣紙を株式会社呉竹の裏打専用紙で熱圧着したものを5cm角に切り、サンプルとした。このサンプルに溶剤を塗布後、ピンセットで宣紙から熱圧着用紙を剥がせるか試みた。評価方法としては熱圧着用紙に桃色が少ない方が本紙が相剥ぎになっていない、すなわち本紙に損傷を与えずに裏打紙を取り除くことができたと判断し、熱圧着用紙がより白いものを評価することとした。今回、剥離実験には水の他に生活に身近な溶剤である除光液とシールはがし、そして代表的な有機溶剤であるアセトンとエタノールと酢酸エチルを使用した。また有機溶剤は2種類ずつ混合させたものも使用して剥離実験を行った。総合的な結果として、画像の都合上確認が難しいが最も綺麗に剥がすことが出来たのはシールはがしという結果となった(図1)。シールはがしには有機溶剤の他、リモネンという界面活性効果を持つ成分が含まれている。こうした添加剤の影響により綺麗に剥がすことが出来たことが推測される。使用した有機溶剤の中では、有機溶剤を単体で使用したものよりも酢酸エチルが3割、アセトンが7割で混合させたものが最も効果的だった(図2)。しかし、シールはがしに匹敵するものはなかったため、有機溶剤に界面活性剤を混ぜることでその効果が上昇する可能性が考えられる。
伝統的な手法で裏打ちされたものとは異なり、可逆性はあるのかというところからこの実験を始めた。本研究で身近な溶剤や一般的な有機溶剤を使用したその効果の比較をすることが出来た。さらなる改善方法として界面活性剤を用いた今後の研究に期待したい。熱圧着裏打ち作品の経年劣化についても今後研究の必要性を感じる。