有珠モシリ遺跡出土の動物遺存体からみる北海道の鯨類利用
石川渓人
山形県出身
青野友哉ゼミ
目 次 出土鯨類分析の必要性/鯨類利用研究の流れ/有珠モシリ遺跡の概要/分析1:有珠b火山灰直上出土の種不明動物遺存体の同定/分析2:縄文時代晩期から続縄文時代における鯨類利用の検討/分析3:加工痕のある鯨類骨/考察:鯨類利用の変遷と比較/おわりに
北海道伊達市にある有珠モシリ遺跡では、縄文時代晩期から続縄文時代にかけての遺物が多く見られ、現在まで鯨類骨や鯨類骨製品も多く出土しているが、詳細な分析や研究がなされていない。本研究では、2019年に当遺跡の発掘の際に出土した当時ワニもしくは種不明とされていた動物遺存体の同定と鯨類の出土状況や利用方法について分析し、当時有珠モシリ遺跡で生活していた人々の鯨類利用について明らかにする。加えて、有珠モシリ遺跡における通時的な鯨類利用の変遷を明らかにする。
当遺跡は、伊達市有珠町に位置する三角形状の島である。島全体が遺跡になっており人骨や動物遺存体、骨角器等の製品が出土している。地層年代は、1663年の有珠山噴火の際に積もった有珠山火山灰を境に上側が17世紀以降の層(Ⅰ層)、下側は続縄文時代(Ⅲ層)から縄文時代晩期(Ⅳ層)まで遡る。
当遺跡有珠山火山灰直上(17世紀以降)出土の、発掘当初ワニもしくは種不明とされていた動物遺存体2点(図1,2)を骨格図鑑や山形県立博物館、国立科学博物館所蔵の骨格標本を基に比較し、ザトウクジラと同定した。
Ⅲ層以下出土の動物遺存体と焼骨をそれぞれ鯨類と鯨類以外に分類し、4パターンに分けて動物遺存体全体に占める鯨類の割合(以下、鯨類割合)を算出した。1区(2020年調査区)の分析では上層ほど鯨類割合と鯨類全体における鯨類焼骨の割合が大きくなっている(表1)。
当遺跡では続縄文時代の層から多くの鯨類骨製品やクジラの彫刻のある匙型製品、大型銛が見られる。鯨類骨製品が多く見られるため、続縄文時代には比較的容易に鯨類骨が手に入っていたのだろう。大型銛は着脱可能で多くの返しがあるため、魚の採取よりもクジラ等の海獣の狩猟に用いられていたのだろう。これらから、当遺跡では続縄文時代晩期には鯨類利用が盛んであったと考えられる。
当遺跡での鯨類利用の変遷は、1区の分析で上層ほど鯨類割合や鯨類焼骨割合が上昇しており、時代が進むにつれ鯨類利用が活発化していったのだろう。また、加工痕のある鯨類骨の分析から鯨類骨加工は続縄文時代以前に始まり、続縄文時代には発達した加工技術が用いられていたのだろう。