[優秀賞]
浅沼珠央|1.そこに、独り 2.飛翔
岩手県出身
結城泰介ゼミ
ハーネミューレ、油性インク
結城泰介 専任講師 評
鳥や昆虫、草花などの生き物。卓越した描写だが紡がれたイメージは繊細で一見ナイーブ、儚く、脆くも見える。しかし作者の作品世界への眼差しは強く深い。この描写は徹底したモチーフとの対峙による成果であり、絶対的な観察から始まり鉄筆で線を刻み込む行為は現実を直視しながら自身の意志を版上に託す唯一の方法だ。そして版の介在、描画を腐食やプレス機に委ねる銅版画特有の間接性を現実での「他者との出会い」に重ねる。他者とは人、道端の小さな生き物達、様々な事象を示す。銅版が腐食液に浸され描線が朽ちて行く工程は時にあらぬ方向へと転がり結果が予想できない様に、他者との出会いも唐突で決して予測できない。浅沼珠央は予期せぬ偶然の事象を受け入れ自らの意志と融合させ共生すると言う。これはしっかり現実と向き合いながらしなやかに生きる態度の美でもある。