[優秀賞]
明治期の上山城下町が描かれた『上山戸別図』にみる旧上山城下町の景観と産業
佐藤祐美
山形県出身
北野博司ゼミ
本研究では明治期の上山城下町が描かれた『上山戸別図』(図1)から読み取れる情報を元に、分析を行い、明治期の上山城下町の景観と産業について考察を行い、成果として『上山戸別図』を元にした「明治期の上山城下町?職業まっぷ」(図2)と題した地図を作成した。
職業の分析の結果(図3)、百姓町として存在した北町、郊外の川向は職業不明の家屋の割合が高く、住宅地や郊外で農業を営む人が多かったと考えられる。対して商業の中心地であった十日町は商店を営む家屋の割合が全体の中で最も高く、旅篭屋?貸座敷を営む家屋の数も多いことから、商業の中心地であるとともに宿場町の役割も担っていたと考えられる。
建物の分析の結果、北町や川向といった大通りから離れた場所の家屋は草葺きの屋根が多いのに対し、一部大通りに面する二日町や、明治期に新たに作られた三島町は草葺きの屋根が少ない。また、川向には昭和のはじめ頃まで草葺きの家屋が残っていたが、時代が進むに連れてその姿を消していき、十日町でも、建て替えや改築の際に屋根の素材が草葺きから変わっていったとされる。大屋根の素材は時代が移り変わっていく中で造り替えられ変化していき、草葺き屋根は姿を消していったと考えられる。
明治初期の上山城下町は旅篭屋と貸座敷が混在して存在するといった宿場町としての特徴や、大通り付近に作られた公衆浴場といった温泉町としての特徴が残っていることが挙げられる。
景観年代については、建物描写と古写真を照合した結果、少なくとも明治40年頃までの情報が入っていることが分かった。
作成した地図の活用方法として、実際に町を歩く際に用いることで、変化した街並みや老舗の店などの発見を通して、変化し続けていく街並みの過去の姿を知るきっかけとなるのではないか、と考える。その上で改めて街並みを眺めて見ることで、普段過ごす街並みが変わって見えるのではないだろうか。
北野 博司 教授 評
佐藤さんは3年次の夏~秋にゼミで行った上山のまちあるき調査に参加した。旧城下町エリア全域を対象に、昔からある遺構(水路や宅地の石積み、石碑等)を徹底的に記録する作業だった。3年次の終わりに調査成果をまとめて、市民向けの小冊子を作った。その過程で出会ったのが「上山戸別図(全40枚からなる明治期の街並み絵図)」である。
この論文では、資料にある約450軒の家屋描写と文字情報を丁寧に分析し、城下町(商人、職人)、温泉町、宿場町、在郷農村の特徴を併せ持ったこの地域独特の居住構成、変貌していく明治の街並み景観を浮かび上がらせている。
また、研究成果を市民らに分かりやすく伝えるために、ビジュアルな職業「まっぷ」を作成したことも良かった。先人が残してくれた遺産に新たな息吹をもたらしたこの研究が、地域のまちづくり等に広く活用されることを期待する。本学科での学びを生かした卒論といえる。